懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
出会いの軌跡
一年四ヶ月前――。
大学を卒業し、全国規模でショッピングセンターを展開する『マリオスター』に就職した里帆は、三年半の店舗勤務の後、二十五歳で都内に自社ビルを構える本社勤務となった。
それも、マリオスターの女子社員の多くが憧れる秘書室である。室長以外は全員女性で、役員たちを陰で支える美女集団との呼び声が高い部署だ。
しかも、容姿端麗で雲の上の存在として人気の高い副社長の秘書として。
どうして自分がそんなところに異動になるのか、里帆は正直いまだに信じられない。
綺麗な二重の瞼だねと言われることはあっても、とりたてて美人なわけでもない里帆は、秘書室の女子社員の中でも浮いているように感じた。
部署のみんなへの挨拶を終えた後、里帆は副社長室でこれから仕えることになる黒木亮介を待っていた。
ダークブラウンで統一された部屋は、上質な応接セットのあるエレガントな空間。そのソファにちょこんと座り、里帆は緊張の面持ちだ。さっきから手を何度も組み替えては深呼吸を繰り返す。
緩やかなウェーブのあるセミロングの髪をひとつに束ね、かっちりとしたグレーのスーツは異動前に提示された〝秘書のあるべきスタイル〟。メイクアップについてもある程度の決まりがあり、基本のカラーや濃淡も指定されている。