懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
「彼女と再会しました」
「立川里帆は、お前ではなく手切れ金を選んだんだぞ」
「彼女は受け取らなかったはずです。半年前、どうして俺に嘘をついたんですか」
毅然として返す。まだ嘘を貫くつもりか。
隆一はかすかに目を泳がせ、ソファに座り直す。
「彼女が望んだことだ」
鼻をふんとひと鳴らしした。
里帆と再び会えた今、これ以上、責めるつもりはない。もう二度とふたりを引き裂けないとわかってもらえればそれで。
「ともかく俺は彼女と結婚します」
はっきりとそう告げた。
マリオスターの源流である垣内屋|《かきうちや》は一八〇〇年に静岡で呉服屋として創業を開始。一九一五年には株式会社に組織改編し、同業他社との合併を幾度か重ね、小売業界で日本のトップに君臨する現在のマリオスターへと成長してきた。
二百年もの間、同族だけで脈々と受け継がれてきた小売企業は珍しいだろう。
亮介の子どもの頃の記憶といえば、先々代である祖父が読み聞かせてくれた、垣内屋について書かれた門外不出の歴史書だった。