懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました


読み終えた後には『マリオスターの未来はお前が担うんだ』とお決まりのセリフ。それはまるで呪文のように亮介に刻まれ、その道以外に考える余地はなかった。
その祖父は三年前に他界している。

四方八方から矢のようなプレッシャーを感じるのは当然。それを紛らわせようと、一時は遊びに走った時期もある。そうかと思えばムキになって仕事に打ち込み、体を壊した過去も。
副社長になり、いよいよ社長の椅子が見えてきた頃、出会ったのが里帆だった。

真面目で謙虚。それでいて自分の意見もしっかり言える女性は、亮介の目に真新しく映った。

なにしろそれまで亮介の知っている女性といえば、大企業の御曹司という肩書きに惹かれるブランド志向か、言いたいことも言えない人形のような女性のどちらかだったから。

ふたりきりで長時間一緒にいても息苦しさを感じさせない彼女は、いつの間にか心地いい存在に変わり、気づけばずっとそばにいてほしいと願うようになっていた。


「亮介、お前にはそれなりの家柄の女性を結婚相手として迎えると言ってあるはずだ」
「ですから、それは何度もお断りを」
「断れると思っているのか」


亮介を遮り、隆一が眉間に皺を刻む。
どれだけプレッシャーを与え続ければ気が済むのか。それこそ生まれてから三十二年間、好きなだけ制圧してきたはずだ。
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