懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました


「とにかくそういうことですので。息子として報告の義務はあるだろうと思ってきただけです」


〝息子〟の部分をわざと強調する。そのような関係性はとっくの昔に崩壊している。


「私は認めないぞ」


頑として譲らない隆一を喜代が「あなた」と宥める。そうしたところで態度を軟化させる隆一ではない。


「それでも意思を曲げるつもりはありません。仕事は今以上に精進していきますので、ご心配なく。では、朝の貴重なお時間を奪い、申し訳ありませんでした」


立ち上がって一礼し、リビングを出たところで妹の(あん)と鉢合わせした。


「お兄ちゃん、来てたの!」


大きな目をくるくるとさせて軽くジャンプする。

天真爛漫で人懐こい杏は、母の喜代の血を強烈に受け継いだ美しい顔立ちをしている。六歳離れており、小さな頃から兄妹仲は比較的良好だ。
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