懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
わくわくした様子で杏が目を輝かせる。
「俺の結婚」
「えっ、お兄ちゃん、とうとう結婚するの?」
杏の声がワントーン高くなったタイミングでリビングのドアが開き、隆一が出てきた。亮介のほうを見もせず、杏にだけ「行ってくる」と声をかける。
わかりやすい反応は心の中で笑う以外にない。
「お父さん、いってらっしゃい」
杏に元気よく送り出され、隆一はまんざらでもなさそうに笑みを一瞬だけ浮かべ、喜代と一緒に玄関を出た。喜代は車まで見送りにいくのだろう。
「それでなに? お父さんに反対されてるの?」
「そんなところだ」
「あぁお父さん、ここ数ヶ月ずっとどこそこの令嬢がどうとか、こっちはどうだとかって頭を悩ませていたわ」
いくら縁談を持ち込まれたところで、亮介にその意思がなければ無駄に終わるというのに。
里帆と出会う前の亮介だったら、父親の提示した相手と結婚していたかもしれない。そしてその後、出会った里帆との道ならぬ恋に頭を悩ませていた可能性もあるだろう。