懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
杏は両手に握った拳を胸の前で振る。
心強い励ましがうれしい。亮介は「サンキュ」と杏の頭を撫でた。
そんなふたりのやり取りを見ていた喜代がポツリと話しだす。
「亮介にも杏にも話したことはなかったんだけど」
いきなり静かな面持ちだ。
「実は、お父さんには父親がいないの」
「……え?」
予想もつかない話が亮介と杏を戸惑わせる。
「だって、亡くなったおじいちゃんは?」
杏の疑問はもっともだ。父親がいないのだとすれば、祖父の存在はどう説明するのか。
「正確に言うと、血を分けた父親がいないと言ったほうが正しいわね」
「それじゃ……おばあちゃんはお父さんをシングルマザーとして育てて、おじいちゃんと結婚したってこと?」
「そうなの」