懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
ここへ来たときのハイテンションはどこへやら。野崎は、まるで捨てられた子犬のように情けない目をして里帆を見た。
「野崎さん、明るくて物怖じしないみたいですし」
なにしろ社長の妻を前にしても緊張はまったく見えなかった。たぶん里帆だったら、そうはいかないだろう。
「謙虚な姿勢で臨めば、きっとすぐに秘書が板についてくると思います」
「本当ですか!?」
里帆の助言を聞いた野崎の顔に、みるみるうちに明るさが戻っていく。単純というか素直というか。でも、悪くはない。
「野崎は少し内向的になったほうがいいくらいだ。まずは動作と声がでかすぎる。そこからなんとかしてくれ」
「最大限努力いたします!」
たしかに声が大きい。言われたそばから大音量だ。
亮介から「だから、その声だ」と即ツッコミが入った。
なかなかいいコンビになりそう。
里帆は密かにそう思って、亮介の隣でクスッと笑った。