懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました


だが、悲しんでいる彼女にこれ以上べつの悩みを与えて、苦しませるのは避けたかったのだ。

隆一の手先。きっと彼女には、成島はそう印象づけられただろう。無慈悲な男だと。
それを思うとつらかったが、自分の苦しみなど彼女に比べればどうということもなかった。

こうして思い返してみれば、間の悪い、勇気のもてない男にほかならないと笑えてくる。

恭子ときわどい話をしていると、秘書室のドアが勢いよく開いた。


「野崎を知らないか?」


子どもが産まれ、今もっとも幸せな男、亮介だった。


「野崎くんですか? ここへは来ていませんが」


恭子が答えながら成島を見る。ね?と同意を求められた成島も、「ええ、来ていません」と答えた。


「そうか。トイレに行ったきり戻らないんだ。ったくアイツ、なにをやってるんだ」
「探してきましょうか」


椅子から立ち上がった成島の申し出に、亮介が首を横に振る。
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