懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
「いや、もう少し部屋で待ってみるよ」
じゃ、とドアを閉めかけた亮介がなにかを思い出したかのように、もう一度顔を覗かせる。
「成島、ひとつ聞いてもいいか?」
「はい、なんでしょうか」
成島は両手を前で組み、真顔で返した。
「里帆のいた街の開発の話、あれ、架空だっただろう」
「な、なんのことですか」
今日は動揺させられる話ばかりだ。
「俺を里帆のいるところに向かわせるために、成島がでっちあげた開発物件だったんだろう? おいしいパン屋があるらしいですとも言ってたよな」
「どうして私がそんなことを」
とっくに忘れているだろうと思っていたのは間違いだったらしい。
亮介の言う通りだった。愛し合っている者同士が引き離されたままでいいわけはない。手を下した実行部隊ではあったが、里帆の幸せを願えばこその苦肉の策だった。