懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
「成島室長、待ってください」
精いっぱい力を込めた。成島が立ち止まってから彼に歩み寄る。
「これはいただけません」
先ほどベンチに置かれた封筒を成島に突き返した。
こんなものをもらったら、亮介との恋がすべて嘘になる。それだけはしたくない。
成島は封筒と里帆を交互に見やった。
「今後のためにも、もらっておいたほうがいいのではないですか?」
「いりません!」
声を振り絞って叫ぶ。
その瞬間、驚いたセミが鳴き声をぴたりと止めた。一瞬の静寂が、ふたりを包む。
里帆は成島の胸に封筒を押しつけるようにした。
「でも彼には……副社長には私がお金を受け取ったと言ってください。喜んで受け取ったって」
こんな形で別れて、彼に気持ちを残してほしくない。お金に目がくらむような女だったのだと思ってもらったほうがいい。