懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
堕胎を決断したときには、相手とは連絡が取れないと伊織に相談してみるしかないだろう。
出産するか堕胎するか。選択肢はふたつにひとつ。
出産を選んだ場合、当然ながらシングルマザーとしてひとりで育てることになる。見ず知らずの土地で、頼りになる両親も亡くしている里帆には、そんな自信は持てなかった。
しかもそのときの里帆は、亮介を失って心が一度折れたばかり。待合室で幸せな顔をして診察を待つプレママたちを見て、さらに気分は落ち込んだ。
堕ろそうか。もうそれしかない。
そう思ういっぽうで、大好きな亮介との間に宿った赤ちゃんをこの世から消すことに躊躇いもあった。
そうしているうちにつわりが始まり、追い打ちをかけるように体調が思わしくなくなっていく。
働きだしたばかりなのに具合が悪くて休む日が増えたあるとき、一子に『もしかして里帆ちゃん、妊娠してる?』と鋭い指摘をされた。
最初こそ否定していた里帆だったが、一子の目は欺けない。『実は……』と打ち明ける以外になかった。
どちらを選択するにしてもサポートするという一子の心強い言葉にも励まされ、少しずつ考えを固めていく。
ところが、いざ出産を決意して病院を訪れると、伊織から厳しい話を聞かされた。