懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました

昨日、亮介が里帆と再会した海辺の街へ行ったのは、新たな出店地として候補に上がった土地があったためだ。

経営戦略室にいた頃には居抜き物件や新規物件をリサーチするなど開発を手掛けることも多かったが、社長に就任してからは当然ながら遠のいていた。

亮介のところに話がくるときには、社内の協議で採算が見込めると踏んだ物件のみ。稟議書に目を通し、押印する立場になったためである。印鑑を押す前には、もちろん現地へ赴くが。


「どうしてあの物件を俺に見させた?」
「とおっしゃいますと?」


成島が目をまたたかせる。体を少し傾け、亮介を真っすぐ見た。


「……いや、なんでもない。気にしないでくれ」


右手をひらりと振り、椅子の背もたれに体を預ける。ひじ掛けに両腕を置き、椅子を窓のほうへくるっと回転させた。

海水浴以外に娯楽のない海辺の小さな街。そこにマリオスターの大型ショッピングモールを誘致したいと打診があり、亮介も一度現地に足を運んでみてはと声をかけたのが成島だった。
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