懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
まだリサーチすらままならない段階。数値的根拠もない状態で、とりあえず見てみるだけでもと乗せられて行ったのが昨日だ。
候補地に行けば、その土地の店を見て回るのは当然。時間帯に応じた車の流れ、街の様子、そういったものを肌で感じるのも大切になってくる。
あのパン屋に足を踏み入れたのも、どういった種類のパンが売れ筋なのか見るためだった。
ところがそこに思いがけず里帆がいたため、リサーチどころではなくなる。自分がどんなパンを手に取ったのかを知ったのは、自宅マンションに帰ってからだった。
彼女が去って半年。金に目がくらんだ里帆を今さらどうしようというのか。
自分で自分がわからない。
ただ、彼女の口からしっかりと別れの理由を聞くまでは、半年前で止まったままの気持ちを吹っ切ることはできないと考えていた。
「社長、不躾ながら、ご再考をお願いいたします」
成島は綺麗に整えた先ほどの書類をもう一度亮介のデスクに置き、社長室を出ていった。