懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
いたずらな再会
『ベーカリー工房みなみ』に香ばしい匂いが立ち込める。こぢんまりとした店内に次々と焼き立てのパンが並び始めた。
定番のメロンパンやクロワッサンはもちろん、ナッツやベリーがぎっしり詰まったパンなど種類も豊富だ。
中でも一番の人気は、なんといっても食パン。ほどよいバターの風味が口いっぱいに広がり、ふわふわもちもちの食感が病みつきになる。
朝八時のオープンと同時にお客が買い求め、真っ先に売り切れる商品である。
「里帆ちゃん、これも頼むよ」
この店の店主である南幸則が里帆にパンの乗ったトレーを手渡そうとすると、奥から出てきた妻の一子がすかさず取り上げる。
「ちょっとあなた、里帆ちゃんにあまり重いものは持たせないでって言ってるでしょう?」
「おっとそうだよな。ごめんごめん、里帆ちゃん」
白いコック帽をかぶった幸則は、褐色に焼けた顔を綻ばせた。
「いえっ、このくらい平気ですから」