懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました

毎朝お決まりの確認から入り、濃茶色のエプロンを着けて店先の掃除を始めた。


「今朝も冷え込むわねー、里帆ちゃん」
「ほんとに。寒くてお布団から出るのがつらいですよね」


道行く人たちと挨拶を込めた会話をしながら、せっせとオープン準備を進める。

ここへ来てまだ半年だというのに、南夫妻はもちろん、近所の人たちも里帆をあたたかい気持ちで受け入れてくれていた。


午後三時。一日の中でみなみが最も閑散とする時間帯である。閉店間際の四時半までは、お客がポツリポツリとしか来ない。
その時間を利用して手書きのPOPを描くのは里帆の仕事である。

マリオスターの店舗にいた頃も、本社から送られてくる販促物のほかに自分で作ることがあった。パソコンで打ち出したものよりも味があっていいと、上司からの評判も上々だったものだ。
そのパンの特徴だとかおすすめポイントを書き、カラフルに仕上げる。


「よし、これで完成っと」


新作のパンのトレーの前に付け、里帆が満足げにPOPを眺めているとドアが開いた。
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