懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
「いらっしゃいませ」
言いながら振り返った里帆は、そこで息を吸い込んで文字通り固まる。
亮介だったのだ。
つかつかと歩み寄り、まばたきもできずにいる里帆の前に立つ。
持っていたサインペンが里帆の手からスルッと落ち、床に跳ね返った。
「里帆、話がしたい」
そんなことを言われるとは思いもしない。里帆は目を泳がせながら俯いた。
「里帆」
もう一度名前を呼ばれ、胸が詰まるように苦しい。どこか事務的で、付き合っていた頃の呼び方とは違っていた。
里帆を憎んでいるだろうから、それも当然だろう。
「仕事中なので」
そう言う以外にない。