懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました

◇◇◇◇◇

仕事を終えて店で歩いていると、里帆は少し離れた道路脇に亮介の車が停車しているのを見つけた。
来た道をUターンで戻ろうとしたそのとき。


「里帆!」


車から降りた亮介が駆け寄ってくる。走ってその場から逃げたくても、今の里帆にはできない。
亮介が目の前までやって来ても、足がすくんで歩きだすことすらできなかった。


「話をしよう」
「……話すことなんてないです」
「里帆には話す義務がある。俺はまだ、キミの口から別れの理由をきちんと聞いていない。なにも言わずに消えるのは、あまりにも身勝手じゃないか?」


その通りだと里帆も思う。
さよならも告げずに姿をくらませるなんて、残された人にとってはもっともひどい仕打ちだ。

でも、あのときの里帆には、それしかなかった。成島に言われたとおり消える以外に。


「時間はそんなに取らせない。車で話そう」
< 64 / 277 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop