懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
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仕事を終えて店で歩いていると、里帆は少し離れた道路脇に亮介の車が停車しているのを見つけた。
来た道をUターンで戻ろうとしたそのとき。
「里帆!」
車から降りた亮介が駆け寄ってくる。走ってその場から逃げたくても、今の里帆にはできない。
亮介が目の前までやって来ても、足がすくんで歩きだすことすらできなかった。
「話をしよう」
「……話すことなんてないです」
「里帆には話す義務がある。俺はまだ、キミの口から別れの理由をきちんと聞いていない。なにも言わずに消えるのは、あまりにも身勝手じゃないか?」
その通りだと里帆も思う。
さよならも告げずに姿をくらませるなんて、残された人にとってはもっともひどい仕打ちだ。
でも、あのときの里帆には、それしかなかった。成島に言われたとおり消える以外に。
「時間はそんなに取らせない。車で話そう」