懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
目線を上げ、亮介を見る。気持ちを強くもち口を開いた。
「お金がほしかったんです。ただそれだけ」
両親を亡くしている里帆だからこそ信ぴょう性があるだろう。
愛よりもお金。亮介よりも。
きっぱりと言った途端、息が詰まるように苦しくなる。
亮介につく嘘が、予想をはるかに超えた痛みを連れてきた。
本当はお金なんか受け取っていない。全部嘘なの。
そう言って、その胸に飛び込んでしまいたい。
でも、それをしたらすべてが水の泡。輝かしい亮介の未来を汚すことになる。
震える手をもういっぽうの手で押さえた。そうしなければ、亮介を欲してその手を伸ばしてしまうから。
「……わかった」
亮介は小さい声でつぶやいた。
一度ならず二度までも、大好きな彼を傷つけた瞬間だった。
でもこれは、亮介が前を向いて歩くために必要なもの。
そう自分に言い聞かせ、ドアを開ける。