懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
「さようなら」
声が震えているのにどうか気づかないでと願うばかりだった。
これで本当に終わり。亮介も、二度と会いにこないだろう。
その事実が里帆の胸を締めつけた。
車を降りてゆっくり歩きだす。
本当の本当に終わっちゃった……。
やるせない想いに襲われたそのとき、ふと目の前を白いものが横切った。
嘘。雪……?
空を見上げると細かい雪がチラチラと舞っている。雪は滅多に降らないという街の空を、白いもので覆おうと雲が両手をめいっぱい広げているよう。
亮介との再会もろとも消そうというのか。
そういえば、亮介と気持ちが通じ合った夜にも雪が降っていたっけ。
そんな思い出が蘇った瞬間、視界がチカチカとして目が霞む。小雪がちらつくほど寒い夕暮れなのに、里帆の額には汗が滲んだ。
突然襲ってきた目眩をやり過ごそうとしたものの、立ち止まった里帆は動けなくなり、思わずその場にしゃがみ込んだ。
「里帆!」
倒れて薄れゆく意識の片隅で亮介の声が聞こえたのは、きっと幻聴だろう。
里帆の願望が聞かせた幻。
里帆はゆっくりと目を閉じた。