懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
大して重いものでもない。
里帆は一子が抱えたトレーを受け取ろうとするが、彼女は「大事な時期なんだから甘えていいのよ」と優しく微笑む。
「そうだよ、里帆ちゃん。無理は禁物だ」
「ありがとうございます」
優しい言葉に里帆は笑顔で答え、まだそれほど目立たないお腹にそっと手をあてた。
「里帆ちゃんは、いてくれるだけで店がパッと華やかになるからさ。できることだけやってくれれば十分だよ」
「そうよ。すっかり看板娘だものね。里帆ちゃん目当てなのか、この頃若い男性のお客さんも多いし」
「そんなことないです」
ふたりに向かって首を横に振る。
それはお世辞。余計な心配をしなくていいように気遣ってくれているのは、里帆も十分わかっていた。
だからこそ、せめて足手まといにならないように心掛け、常に笑顔を絶やさないようにしている。
亮介のもとから姿をくらませた半年前、行き着いた海辺の街をあてもなく彷徨っていた里帆は、この店の前で求人の貼り紙を見つけた。