懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
「おいしいフレンチの店があるんだ。一緒にどう?」
取引先との会食らしい。お相手も秘書が同行するのだろうか。
「どちらさまをお連れするんですか?」
「どちらさまって……立川里帆様?」
亮介はおどけたように首を傾げた。
「……はい?」
「だから、俺とキミのふたり」
亮介が自分と里帆を順番に指差し、にっこり笑う。
「……副社長と、私? えっ、どうしてですか?」
「たまには秘書を労わなないとね。いつもあちこち気を遣って疲れるだろう? 今夜は俺が立川さんをおもてなしするよ」
「そんなっ、お気遣いしないでください。あれこれと気を回すのは秘書の務めですから」
里帆の言葉に亮介がムッとする。笑っていたのが嘘のように、目を鋭くさせた。
「ともかく行く。立川さんは、ごちゃごちゃ言わずについてくること」
「ですが!」
「ですがもへったくれもない。これは上司命令だよ」
そう言われれば、部下として従わざるを得ない。里帆は、再び歩きだした亮介の後を追いかけた。