懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
「この店のオーナーだよ。俺の大学時代の友人。今夜の予約もそいつに無理を言ってとった」
「そんな無理に予約なんて」
里帆を労うためなのだとしたら、そんな必要はない。話しぶりから、人気店のためなかなか入れないのだろうとわかる。
案内されたテーブルは、扉こそないけれど周囲とは隔絶された場所にある半個室だった。
黒いテーブルに黒い椅子のため、窓の外の夜景に溶けて見え、空に浮かんでいるような感覚になる。
亮介にメニューのチョイスはいっさいお任せし、スパークリングワインで乾杯したところで「失礼します」とひとりの男性がやって来た。
センスの光るダークグレーのスーツはあつらえたように体にフィットし、身のこなしも美しい。亮介のように背がすらっと高く、やわらかそうなパーマヘア。メタルフレームの眼鏡の奥では、アーモンド型の目を細めていた。
「いきなり電話してきたかと思えば予約を取らせろなんて、ずいぶんと横暴な友人だな」
「たまにはそんなわがままを聞いてくれたっていいだろう?」
楽しげに話すふたりは揃って花があり、テレビ越しにイケメン俳優でも見ている気になった。
大学のときの友人だと言っていたが、きっと大学時代にはふたりともモテモテで困っただろうと想像できる。華やかな大学生活を送ったに違いない。