懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
「そうか、いないのか。それは悪かった」
どこかご機嫌な様子で亮介が笑う。
里帆はといえば、彼氏がいないのがそんなにおもしろいのかと不満だ。
「それじゃ明日も一緒に祝おうか」
「べつにそうしていただかなくても結構です」
かわいげがないなと自分でも思う。素直に〝ありがとうございます〟と言えたら、もしかしてふたりの関係性にちょっとした変化が訪れるかもしれない。
そんな邪なことを考えた自分を即否定する。
やだな、そんなのあるわけないじゃない。
副社長である亮介が、自分とどうこうなるわけがない。単なる社長と秘書だ。
スタッフが切り分けたケーキはベリーのジャムが練り込まれ、ほどよい甘さで文字通りほっぺたが落ちるおいしさ。食べきれない分は箱に入れてお持ち帰りにしてもらった。
その晩、里帆が眠りにつく少し前。午前〇時を回ってすぐ、スマートフォンに亮介から〝誕生日おめでとう〟というメッセージが入った。
誰よりも早いおめでとうに、里帆の心は揺さぶられたのだった。