懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました
一も二もなく働かせてくださいと頭を下げた里帆を、南夫妻は快く受け入れてくれた。それどころか住む場所にも困っていた里帆に、南が所有するアパートを格安で斡旋するという手厚い処遇付きで。
新しい命がお腹に宿っていると知ったのは、なんとか生活に慣れてきた三ヶ月後のこと。
もちろん、産むべきかどうかさんざん迷った。堕胎が可能な時期のギリギリまで悩み抜き、眠れない夜をいくつも数えた。
でも、大好きな亮介との子どもをこの世から消すなんて、里帆ができるはずもない。なかなか思いきれずにいたが、最初から答えは決まっていた気がする。
ひとりで産み、育てていく覚悟をした。
大事なものを失った里帆の、大きな希望。なににも代えがたい宝物になった。
現在は妊娠六ヶ月も後半に入り、つわりは収まっている。一般的には胎動も感じられる時期らしいが、里帆はまだこれといった感覚はない。
高校の時に母親を、大学の時に父親をそれぞれ病気で亡くした里帆には身内と呼べる人はおらず、今は幸則と一子が唯一の頼り。なにかと心細くなる妊娠中の里帆は、ふたりに甘えさせてもらっていた。