懐妊秘書はエリート社長の最愛妻になりました


どことなく寂しげに見えて胸が痛い。

里帆たちが近づいたのに足音で気づいたか、亮介が振り返りつつ顔を上げる。


「お待たせしました」


修太朗の姿があるのに気づき、亮介の目がほんの少し険しくなった。

彼の前に修太朗と並んで座る。店員に修太朗の分のコーヒーと里帆のホットミルクを注文した後は、そのテーブルに静寂が訪れた。

これ以上なにを話せばいいのかわからず、里帆は俯いて膝の上に置いた自分の手を眺めるばかり。周りから聞こえる楽しげな声が、やけに遠くに感じた。


「里帆、本当のことを聞かせてほしい」


静かに紡がれるひと言が心に突き刺さる。
本当のことは絶対に言えない。里帆は嘘をつきとおす以外にないのだ。


「……さっき話したとおりです。お腹の子どもは、彼との間にできた子なんです」


左に座った修太朗をチラッとだけ見て、再び顔を前に戻す。
< 91 / 277 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop