たとえば、こんな人生も
「―良くないよ」


「……いつきさん?」

じっと私に顔を向けるいつきさん
そこにいつも浮かべてる笑顔はなくて


「本当に…
きみは危なっかしくて放っておけない」


深くため息をついて
いつきさんはまた手当てを再開した

私はいつもと違う
そのどこか不機嫌そうな表情に少し戸惑った


「………怒ってます?」

「少し」


おそるおそる問いかければ
肯定する言葉が返ってきて、私はさらに戸惑った


「…きみは、自分を粗末に扱いすぎ」

「粗末に扱ってるつもりはないです
姉さんが、痛い思いするのは嫌だっただけで…」

「うん。でも、相手の気持ちは?」


「きみが代わりに痛い思いをして
それを目の前で見てたせなさんの気持ちは?」


手当てを終えたいつきさん
救急箱のふたを閉じてから
そのままじっと私を見つめて問いかけた


「…」


「せなさんだって、きみと同じように
きみを大切に思ってる」


「きみが傷付けばひどく悲しむ
苦しくて泣くかもしれない」
< 109 / 177 >

この作品をシェア

pagetop