たとえば、こんな人生も
…。


怒鳴られたわけでも
殴られたわけでもないのに

そうされたって
いつもならなんとも思わないのに


……どうして?


いつきさんが相手だと…



泣きそうになる



滲み始める視界

そんな私にいつきさんは少し表情を柔らかくして、口を開いた


「別のやり方を見つければいいんだよ」


「状況を見て、よく考えて」


「本当にそれ以外に方法はなかった?」



「きみが黙って叩かれる以外に
あの場を切り抜ける方法」



「大声で助けを呼ぶとか
警察を呼んだ振りをするとか
何か目眩ましになるものを見つけて
せなさんを連れて逃げるとか」


「選択肢はたくさんあったよ」


「きみもせなさんも傷付かないで済む選択肢はあった」


いつきさんはそっと
手当てを終えたばかりの私のほっぺたに手を伸ばした



「それをとっさに見つけるのは難しいかもしれないけど、それでも探して」


「出来る限り
きみもまわりも傷付かない選択肢を」



そこに置かれた手は優しくて


このひとが今すごく
私を心配してくれてるのが伝わって

だから怒ってるんだって改めて分かって
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