たとえば、こんな人生も
変わらず笑って答えれば
いつきさんはそっと目を伏せて

それから

いつもの笑顔を浮かべて私の頭を撫でた


「ひなたちゃん
何かあったら…それがどんな些細なことでも連絡して」


「これも、そのまま持ってて」


そう言って、昼間私が返却したカードキーを差し出す


「いつでも来ていいから」

「…」


黙っていつきさんとそのカードキーに交互に視線を向けて

……少し悩んで

そっとカードキーを受け取った



「じゃあ、またお店で」

「はい。おやすみなさい」

「おやすみ」



最後の『おやすみ』を交わして
去っていくいつきさんをぼんやり見送った

いつきさんの姿が見えなくなってから
私は家の中に入った



数ヵ月ぶりの我が家は相も変わらず


ものが散乱したリビング

びりびりに裂けたカーテン

綿が飛び出たぼろぼろのソファー

飲み物や調味料やらが飛び散って壁や床はべたべた

キッチンもシンクに大量の洗い物

ごみも放置されたままで


ひどく汚れてる


玄関や、お風呂場は比較的綺麗

リビングとキッチンだけ異常に荒れてるのは、基本的にあの人が居座ってる場所だから



いつものことではあるけど

数ヵ月留守にしてた分、汚れの度合いはひどい

さすがに、見るに耐えなくて

軽く片付けと掃除をして
それからようやく私は自分の部屋に向かった
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