たとえば、こんな人生も

……その瞬間

むせ返りそうになるくらい濃いアルコールの匂いの中に、ふわりと入り込んできた甘い香り


私が一番、好きだと感じるあの香り



それから



｢ひなた｣



私を呼ぶ声


そっと目を開いて
視界にその人を捉えた瞬間、私は驚いて息を飲んだ


｢……いつ、き…さん…｣

｢良かった。意識はあるね｣


ほっとしたように表情を緩めて
私の前に屈んでいたいつきさんは
目を見開く私のほっぺたを撫でた


｢……誰だ。お前は｣


突然現れたいつきさんに怪訝そうな顔を向けるあの人


｢……あなたは、自分が何をしているか分かっていますか｣


立ち上がったいつきさんは
問いかけには応えずに
ほんの少し怒ったような表情を浮かべて、あの人を見据えた


｢……関係ないだろ。部外者は出ていけ｣


苛立ちはピーク

今にもいつきさんに殴りかかりそうな態度のあの人



……あぁ、やだな


会ってほしくなかったのに


巻き込みたくなかったのに



対峙するふたりの間には険悪な空気が漂う

一触即発なその空気に感じたのは焦り


ふらふらする意識の中、私はいつきさんの事がとにかく心配で

危害を加えられたらどうしようって不安で仕方なかった

だけど、体がうまく動かせなくて
間に入ることさえ出来ない