たとえば、こんな人生も
「…」



『この子を妻にと思っていますので』








「………あの言葉…」


ふっと浮かんだあの時の言葉


みなまで口にするのが躊躇われて言葉を濁す

だけど、いつきさんは私の言いたいことをすぐに察してくれた


「ああ、うん
あんな感じの告白になってごめんね」

「…本気、ですか?」

「本気だよ」


うつ向いてた私はそっと顔を上げて
じっといつきさんを見つめた


「……なんで?
そこまでしてもらわなくて大丈夫です
もう、私は充分…」


この人にはもう、充分過ぎるくらい
たくさん良くしてもらった

この人をこれ以上巻き込む気なんてなかった

そこまでして守ってもらう必要なんてない


「別に同情とか偽善とかじゃないよ
あの場しのぎの言葉でもない」


思ったことは筒抜けで
それを否定しながらいつきさんは私に真剣な眼差しを向ける



「思ってた言葉を口にしただけだよ」



嘘じゃないよと、繰り返して



「単純に俺がひなたに惚れてるだけ」



本当だよって、目で訴えてくる



「ひなたが好きだから
俺の傍にいてもらいたいだけ」
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