たとえば、こんな人生も
「…」


お風呂から上がって
私はリビングで本を読んでいた
いつきさんに声をかけた


「…いつきさん」

「ん?」

「あの…」

「うん」

「…」


読んでた本をぱたんと閉じて
私に体を向けるいつきさん

中々、口を開かない私を
不思議そうに見つめながらも
じっと私が話し出すのを待ってくれてる


……。


意を決して口を開く



「……抱き締めてくれませんか?」



おずおずとお願いすれば
いつきさんは不意を突かれたかのように
目を見張って

そのまま固まった


「…」


……そんな反応に私は焦って

言わなきゃ良かったと後悔する


……いきなり変なこと言ったから
いつきさん困ってる


「……ごめんなさい。やっぱりいいです
おやすみなさい」


ぺこりと頭を下げて
逃げるように慌ててその場を離れようとした


だけど


ふわりと後ろから体を引き寄せられて


「…これでいい?」


いつきさんが後ろからき
ゅっと私を抱き締めて、小さく声を落とす


「……ありがとう、ございます」


まわされた腕にそっと手を置いて
小さくお礼を言う

それきり無言で固まる私

いつきさんもそれ以上は何も聞かず


しばらくそのまま
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