たとえば、こんな人生も
「そう言うと思った。だから……」


オーナーは
自分の隣に座るいつきさんに視線を向けた



「ひなたちゃん。君は俺が引き取るよ」



オーナーに頷くと

ずっと黙っていたいつきさんは
満面の笑みで私に言った



「……へ」


思いもしない人からの、思いもしない申し出に

私は間の抜けた声を返してしまう



「君が姫達の生活や事情が気掛かりで
そこに行くことを拒むなら
いつきの所へ行くといい」


「俺はありがたいことに金には困ってないし
一人暮らしで家族もいない
部屋にも空きがあるから
何も心配しなくていいよ」


「で、でも……」


「店に寝泊まりさせることも考えたが
ひなたは学校もあるし
いつきの所へ行く方が、何かあった時にいい」


「……でも」



戸惑う私にオーナーもいつきさんも笑って
言葉を向けた



「ひなた、君はもう少し
誰かを頼ることを覚えないと」


「君が手を伸ばせば
その手を掴む相手が
ここにはたくさんいる」


「君を助けたいと、君の力になりたいと
思っている人間はたくさんいる」
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