たとえば、こんな人生も
「それで、ひなた
どうだい?いつきの所での生活は」


呆気に取られる私を連れて
シン君達から少し離れた場所に移動すると

オーナーはそんな事を聞いてくる



「……穏やか、です」


一緒にごはんを作って、食べて

他愛ない話をして

まるで「普通」の家庭のような

ゆったりとした時間を過ごしている



暴言や暴力に囲まれていた日々とは
かけ離れた穏やかさ

最初は不思議な感じがしたけど
今はその穏やかさに馴染んで


安心感のようなものを感じてる



「そうか」



答えればオーナーは嬉しそうに笑って
私の頭に手をのせた



だけど



急に表情を曇らせて



「……ひなた、君の父親の様子を見に行った
外からだが、かなり荒れているのが分かった」



伝えられた言葉に真っ先に不安が走る



「………誰かに…」

「いや、そういう話は聞かないから安心しなさい
物に当たっている状態なんだろう」

「…」



憂さ晴らしの道具の私がいないから
余計に苛立ちが募ってるんだろう



「なら、やっぱり…」



「外」に「誰か」に被害が及ぶ前に私がー



「ひなた。言ったはずだ
君は君の事だけ考えなさいと」



口にする前にオーナーに拒否される
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