たとえば、こんな人生も
昨日から
お店に泊まり込みで仕事をしていたいつきさんが
荷物を取りに一旦帰ってきた



「ただいま」


「……おかえりなさい」



……だめだ

声、かたい……


『普通』にって意識すればするほど
『普通』から遠ざかる

きっと浮かべてる表情も同じ


そんな私にいつきさんはぎこちない笑顔を返して
それから、私の隣にいたまこちゃんに顔を向ける



「まこさん」

「お疲れ、いつき」

「無理言ってすみません」

「全然
……てか、いつき疲れてる?」

「色々重なりまして」


まこちゃんの指摘にいつきさんは反論しない


困ったように笑うと
リビングの本棚からいくつか
ファイルを取り出してかばんにいれた


「少し休んでいけば?
ごはん、いつきの分も用意してるよ」

「ありがとうございます
でも、急ぎなので」


まこちゃんの誘いを断るといつきさんは
また私に顔を向ける


「ひなたちゃん
しばらく留守にするけど
何かあればすぐ連絡して
まこさんがいるから大丈夫だとは思うけど」


「……はい」
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