たとえば、こんな人生も
「いつきの料理がいい?」

「……」



控え目に頷く



……まこちゃんにはほんとに申し訳ないけど

いつきさんと一緒に作って食べるごはんより
美味しいとは思えなくて

あんまり食べる気になれなかった



「そっか。それ、いつきに言ったら喜ぶよ」


まこちゃんは怒らなかった

むしろ嬉しそうに笑ってる



「そうかな」

「私も嬉しい
ひな、手料理とか既製品に限らず
美味しいって進んで食べること
あんまりなかったから」

「チョコは食べるよ」

「お菓子じゃなくて
ちゃんとした食事」



「ごはんを美味しいって思えること
一緒にごはんを食べてくれる相手がいることは
幸せな事だよ」



…………幸せ…


まこちゃんが優しく溢した言葉を
私はぼんやりと心の中で繰り返した



……でも、まこちゃん



ごはんが美味しいって思えても

一緒にごはんを食べてくれる相手がいても



私はそれを



自分がここにいることを


生きていることを



幸せだなんて



……どうしても思えないんだ
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