たとえば、こんな人生も
いつきさんの声を聞いたら堪えきれなくて
口からその言葉が突いて出た



『分かった』



『待ってて。すぐ帰るから』



返答に悩む間はなかった
間髪いれずにいつきさんはそう声を返して



電話は切れた




……
……
……




しばらくして玄関のドアが開く



「ひなたちゃん」

「……いつきさん」

「ただいま」



顔を見たらほっとして

扉の前で座って待ってた私は立ち上がって
そっといつきさんの服の裾を掴む



「……おかえりなさい」

「うん。ただいま」



そんな私の頭を優しく撫でて

いつきさんは『いつものように』笑った






「……ごめんなさい。わがまま言って」

「全然。むしろ嬉しかった」


あったかい飲み物を用意してくれたいつきさん
ソファーに腰掛ける私の前に
そのマグカップを置くと隣に座った


「俺を頼ってくれたこと
待っててくれたこと」

「……」


言葉通り嬉しそうに表情を崩すいつきさん

それでも申し訳なくてしゅんと項垂れる私
< 87 / 177 >

この作品をシェア

pagetop