たとえば、こんな人生も
思いがけない返答に目をぱちくりさせれば
いつきさんは笑って


「俺もね
きみと同じ理由でこの世界に入ったんだよ」

「私と同じ理由?」

「お金が欲しかったんだ
…欲しかったと言うか、必要だった」


歩きながら
いつきさんは懐かしそうに自分の昔話をし始めた


「俺が高2の頃にね、母親の病状が悪化して
入院したんだ
手術すれば治る見込みはあったんだけど
俺の家、貧乏だったから」


「俺は高校を中退して働きに出た
頑張ってお金稼いでたんだけど
それでも高額な手術費用を用意できなくて」


「ずっと薬でだましだまし
だけど、確実に病状は悪化していった」


「なんとかしたくて
なんでもいいから早くお金が欲しくて
だから俺はこの世界に足を踏み入れた」


「その時に色々助けてくれたのがレイジさんなんだ」



右も左も分からない場所で
途方に暮れてたいつきさん

派手な見た目とは裏腹に
根が素直で真面目で優しいいつきさん

悪い人に騙されて
危ない目に遭う寸前だったらしい

犯罪事に巻き込まれそうになっていた

そこを助けてくれたのがオーナーだった


住む場所や働く場所
食べる物、着る物
必要なものすべてをいつきさんに与えて


「この世界の事も
たくさん教えてくれた」
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