白雪姫に極甘な毒リンゴを

「六花は花火大会、誰と行くの?」


 わかっているくせに……


 私と花火を見たいって
 思ってくれる人なんか、
 いないってことくらい。


 それなのになんで、
 クラスのみんなに聞こえるように言うかな?


「行かないもん。 
 一緒に行ってくれる人なんていないし」


「紫音くんは? 仲いいでしょ?」


 紫音くんか……


 バスケの部活に忙しい紫音くんとは、
 お兄ちゃんのバイト姿を見に行って以来、
 ほとんど話していないし。


 たまに廊下ですれ違った時に、
 お兄ちゃんについて聞かれるくらいだし。


「花火を一緒に見に行くような関係じゃないよ

 紫音くんが私に話しかけてくるのは、
 お兄ちゃんの情報を聞き出したいだけだから

 せっかく桃ちゃんが浴衣をくれたし、
 家の屋上から見ようかな。花火」


「一緒に花火を、
 見に行ってあげられなくてごめんね。六花」


 ももちゃんは、
 本当にもうしわけないって顔で私を見つめた。


「いいよ、ももちゃん。

 ももちゃんは、
 お店の手伝いで忙しいでしょ。

 お客さんの浴衣の着付けを
 しなくちゃいけないし」


「そうなの! 
 私だって、毎年花火大会に行きたいのに。

 絶対に店を手伝えってうるさいのよ。
 お父さんが」


 呉服屋さんの娘も、大変なのね。


 でもお父さんの気持ち、
 ちょっとだけわかるかも。


 こんなに美人な娘を、
 花火大会に行かせるのは
 不安なんじゃないのかな?
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