白雪姫に極甘な毒リンゴを


 私に話したいことって何だろう。


 クルミちゃんと付き合いだしたことかな?


 そんなこと、
 クラスのみんなが知っているよ。


 それとも、
 私に何か怒っていることでもあるのかな。


 この重々しい雰囲気からして、
 私にとって心が暗くなるような話に
 決まっている。


 私がオロオロしていると、
 七星くんの声が耳に届いた。


「りっちゃんってさ……

 彼氏…… いるよね?」


「え?」


 か……彼氏??


 『からし』や『かかし』と
 聞き間違えじゃないよね?


 生まれてから今まで、
 彼氏なんてできたことないよ。


 告白されたことすら、一度もないのに。


「彼氏って……
 付き合っている人がいるかってこと?」


 七星くんはコクリとうなずいた。


「私……
 誰かと付き合ったこと……ないから……」


 信じられないとでも言いたそうに
 大きく開いた瞳。


 こんなダサダサの私を、
 好きって言ってくれる変わり者なんて
 いないでしょ。


 そんなこと、
 七星くんもわかっていること
 なんじゃないの?


「え? でも……
 1組の紫音くんと……付き合っているって」


 え?? 

 そんな噂があるの??


 もしかして、
 お兄ちゃんを見にバイト先に行った時、
 誰かに見られちゃったのかな?


「そんな、そんな。
 付き合ってなんかないよ。

 紫音くんはお兄ちゃんが大好きなだけで、
 私になんか全く興味がないもん」


 興味があるのは、
 憧れのお兄ちゃんだけなんだから。


 30秒くらいの沈黙の後、
 床を見つめながら七星くんが口を開いた。


「りっちゃんは……

 紫音くんが……好きなの?」


 え? 

 私が……紫音くんを好き?


 七星くんに誤解されているのが
 どうしても嫌で、
 私は首を左右に思いっきり振った。


「どうして……そんなこと……聞くの?」


 七星くんはクルミちゃんが好きで、
 付き合っているんだよね?


 私が誰を好きかなんて、
 七星くんは興味すらないよね?


「りっちゃんがくれた星空のペンケース。

 紫音くんが俺の家に届けに来た。

 その時に、言われたから。
 りっちゃんと付き合っているって。」

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