白雪姫に極甘な毒リンゴを


 振り返ると、
 右わきにバスケットボールを抱え、
 心配そうに私を見つめる、紫音くんの瞳が。


 『何かあったんだろ?』と言わんばかりの
 紫音くんの眼差しが温かくて、
 止まっていたはずの涙が、またあふれ出した。


 わ~ ダメだ。


 紫音くんの前で泣きたくなんてないのに、
 涙が止まらない。


「七星のことで、何かあった?」

 
 ヒックヒックと鼻をすすりながら、
 私はゆっくりうなずいた。


 ポン ポン ポンとボールが跳ねる音が
 したと感じた瞬間、
 私の視界が真っ暗になった。


 私……

 抱きしめられている?


 紫音くんの胸の鼓動が
 ドクンドクンと聞こえる。


 そのリズムが、
 私の氷のようのに冷え切った心を、
 じんわり溶かしてくれる。


 七星くんにフラれた悲しみを癒してほしくて、
 現実逃避をしてしまったけど、
 ハッと我に返って、
 とんでもないことに気づいてしまった!!!


 体育館にいる人、
 ステージにいる人みんなから、
 紫音くんに抱きしめられちゃっている私たち、
 見られているよ!


 多分、お兄ちゃんにも。


 私は紫音くんの腕から抜け出そうとしたのに、
 なぜか私が逃げ出そうともがけばもがくほど、
 紫音くんの腕に力が入って、
 ほどいてはくれない。


「し……紫音くん?」


「六花さ、俺、言ったよね?」


「え?」


「辛いことがあった時は、
 真っ先に俺のところに来いって」
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