白雪姫に極甘な毒リンゴを

 私の知りたい情報が、明らかに欠如していて、
 状況がさっぱりわからない。


「お前さ、体育館で倒れたんだよ。
 紫音に抱きしめられている時に」


 紫音くんの腕の中に納まっていた時の自分を
 思い出して、
 急に体をめぐる血液の温度が上がってきた。


「だから親父に電話して、
 学校まで車で迎えに来てもらったわけ」


 そうだったんだ~


 ……で、すむ話じゃない!!


 体育館から車まで、
 誰が私を運んでくれたの?


 あ!そっか。


 体育倉庫に立てかけてある『担架』


 両側をもって、二人で運ぶあれ、あれ。


 それに乗せて、わっせ!ほいせ!と
 運んでくれたんだよね?
 お祭り気分で。


「担架に私を乗せて、
 お兄ちゃんと紫音くんで運んでくれたの?」


 お兄ちゃんの頬が、
 なぜか赤みを帯び始めた。


「俺一人で運んだし……
 お前を抱きかかえて」


 だ……抱きかかえて……


 それは、どちらでしょうか?


 猟師が、しとめたクマを
 肩に乗せている感じでしょうか?


 それとも


 捕らわれの姫を王子が救い出し、
 生還する時みたいな、
 いわゆる『お姫様抱っこ』でしょうか?


 お兄ちゃんが肩をすくめ、
 恥ずかしそうにうつむく姿を見ると、
 後者のような気が……


 う~ん。 どっちも恥ずかしい!!


 でも、一応お礼は言わなくちゃ。


「お兄ちゃん……ありがとう……」


「おう……」


 悪魔感低めのお兄ちゃんが、
 恥ずかしそうにしているのが可愛くて、
 ついフフフと笑ってしまった。


 ギロリ!!


 お兄ちゃんの瞳が、
 急に悪魔モード全開で、
 私を睨みつけているんですけど。


「六花さ、何しに体育館に来たんだよ。
 紫音に抱きしめられに来たわけ?」


「そんなこと、あるわけないじゃん」


 お兄ちゃんの睨みが、一層鋭くなった。


「じゃあ、なんで体育館に来たんだよ」


「……お兄ちゃんに……

 会いたかったから……」


「へ?」

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