白雪姫に極甘な毒リンゴを
我が家に帰ってきた。
お父さんはまだ、帰ってきてないか。
お兄ちゃんは帰ってくるなり、
そのまま2階の自分の部屋に行ってしまった。
私は洗面所で浴衣を脱ぎ、
メイクを落とそうと鏡の前に立った時、
鮮やかな青い髪飾りが目に入った。
私……
お兄ちゃんにお礼を言ってない……
これを買うために、
朝ご飯を食べずに出かけて、
バイトのお昼休憩に、
わざわざ届けてくれたのに。
私は青い花のついた髪飾りを手に、
階段を駆け上がった。
お兄ちゃんの部屋は、2階の一番奥の部屋。
私はこの部屋に入れない。
近づくことさえできない。
だって、8年前のあの日。
お母さんが意識を失ったのは、
この部屋だったから。
私は自分の部屋に飛び込むと、
紙飛行機を作って、吹き抜けの窓から
お兄ちゃんの部屋の吹き抜けの窓に向かって
飛ばしてみた。
距離にしておよそ4メートル。
飛ばした紙飛行機は、
まっすぐどころか真っ逆さまに
転落しているし。
どんどん作った。
色とりどりの折り紙で、大量に作った。
50個くらい作ったところで、
紙飛行機をまた飛ばしてみる。
何度やっても、どの色の紙飛行機も、
お兄ちゃんの窓に行く気配なし。
全部、
下の階のダイニングに向かって落ちちゃうし。
「もう!
1個くらい、お兄ちゃんに届いてよ!!」
涙目になりながら、
やみくもに紙飛行機を飛ばしていたら、
目的地の窓から、
ひょこりとお兄ちゃんが顔を出した。
「六花、何やってるわけ?」
ひゃ!!
飛行機が届く前に、ばれちゃった……
「別に……紙飛行機大会を、
やっていただけだもん」
素直に
『お兄ちゃんにお礼を言いたかった』
なんて言えなくて、
とっさにごまかしちゃった。
でもこれじゃ、ただの変な子じゃん。
自分の部屋の小窓から、
ひたすた紙飛行機を飛ばしているんだから。
「お前さ、もっと頭を使ったら?
全部同じ折り方したら、
そりゃ墜落するに決まってんじゃん」
お兄ちゃんは、
吹き抜けの窓から顔を出しながら、
紙飛行機の作り方を教えてくれた。
お兄ちゃんが作った紙飛行機は、
吹き抜けを通り、
私の部屋の窓をスウッと通り抜けた。
「お兄ちゃん、すごい!!私も作ってみる」
お兄ちゃんから隠れるように、
床にしゃがみ込んで紙飛行機を作り、
私もお兄ちゃんの部屋の窓めがけて
飛ばしてみた。
「やった~。 やっと、届いた」
「お前さ、やることが本当に小学生レベルな。
普通こんな大量に飛ばすか?
下見てみろよ。
なんか、カラフルな物が突き刺さりまくって、
紙飛行機の墓場みたいになってるぞ」
「お……お兄ちゃん……
下じゃなくて、
お兄ちゃんの部屋の紙飛行機を見てよ」
「は? 何でだよ」
めんどくさそうに紙飛行機を拾った
お兄ちゃんの顔が、急に固まった。
ちゃんと伝わったかな?
紙飛行機に書いた3つのありがとう。