白雪姫に極甘な毒リンゴを

 今日は1学期の終業式。


 全校集会のため体育館に向かう途中、
 十環がいつもの笑顔で話しかけてきた。


「一颯、花火大会の時は、
 先に帰っちゃって悪かったね」


 あれからずっと、気になっていた。

 十環のこと。


「こっちこそ、いなくなった六花を
 探し回らせて悪かったな。

 それより、お前大丈夫か?」


「え……あ、あれね。
 大丈夫に決まっているじゃん。

 いきなり結愛さんに会って、
 動揺しただけだからさ」


 お前また、
 作り笑顔で辛い気持ち隠しているんだろ?


 十環のことを助けてやりたいと思うのに、
 どうしてあげればいいかわからない自分が、
 歯がゆくてムカつく。


「あそこにいるの、りっちゃんじゃない?」


 十環の言葉に促され、
 体育館の入り口を見ると、
 桃ちゃんと笑いあっている六花を発見。


 は!! 

 
 あいつ!!


 メガネはかけてない!!


 髪はおさげじゃない!!


 スカート丈は、ひざ上まで上げてある!!


 赤城家の呪いは嘘だって白状したけどさ、
 メガネにおさげに、
 スカートくるぶしをやめていいなんて、
 俺は許可してないからな!


 俺が離れたところから
 睨んでいるのに気づいたのか、
 六花は俺をじーっと見つめた。


 六花が俺にオドオドすると思っていたのに。


 太陽顔負けの眩しい笑顔で
 俺に手を振ってきやがった。


 まるで、心を許したご主人様に、
 ワンコがしっぽを振るように。


「りっちゃん、
 一颯に一生懸命、手を振っているね」


「ああ」


「どうしちゃったんだろうね?」


 いつも俺の隣にいる十環も、
 六花の異変に気付いたらしい。


 俺はいつも以上に、六花を睨みつけると、
 プイっと視線を外した。


「一颯、心配だよね」


「心配って、何がだよ」


「りっちゃんの今の笑顔は、
 一颯に向けたものだったけど。

 他の男子にも笑いかけるようになったらさ、
 六花ちゃんを狙いだす男子が増えると思うよ」


 十環の鋭い指摘に、
 俺はごくりと唾をのみこんだ。


 確かに、十環の言う通りかもしれない。
 

 六花のカワイイ笑顔を、
 他の奴らには見せたくなくて、
 『お前はブスだ。 笑うとキモがられる』
 って洗脳してきた。


 でも、メガネを外し、
 胸まであるサラサラの髪をなびかせている
 今の六花が笑ったら、
 コテンと好きになる奴が現れても
 おかしくない。


 花火大会の時だって、
 一目ぼれしたって言って、
 リンゴ飴を渡した奴がいるくらいだからな。


 それに俺には、
 驚異のライバルが二人もいる。


 明らかに六花が好きなくせに、
 六花を振ってクルミと付き合っている、
 よくわからない七星。


 そして、六花のことは眼中にないと
 思っていたのに、
 絶対に六花を狙っている、バスケ部の紫音。


 夏休みが明けたら、
 俺のライバルがもっともっと増えそうな予感。


 俺だって、
 亡くなった母さんとの約束がなければ、
 兄ではなく一人の男として、
 六花に接するのにな……


 もう一度、
 クラスごとに1列に並ぶ六花を見た。


 六花を見つめる男どもが、
 赤ずきんを狙うオオカミに見えて、
 俺はムカッと来て、目を閉じた。

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