白雪姫に極甘な毒リンゴを

 学校が午前中で終わり、
 お昼を十環と学校で済ませてから家に帰った。


 玄関のドアを開けた瞬間

「お兄ちゃん~ お帰り~~」

 満面の笑みを浮かべ 
 六花が俺のところに走ってきた。


 か……かわいい……


 目をパッチリ開いて、
 ちょこんと首をかしげながら
 俺を見上げる六花。


 かわいすぎる! 


 この笑顔を独占しているなんて、
 俺って贅沢すぎじゃん!


 気が緩んで、一瞬、
 六花に微笑みそうになってしまったが、
 いけない、いけない!


 このままだと、
 自分をコントロールできなくなって、
 六花を抱きしめかねない。


 俺はしょうがなく、いつものように、
 重~い悪魔の鎧を身に纏った。


「キモイんだよ、その笑顔。
 俺に笑いかけるんじゃねえよ」


 これで退散。 

 天使六花よ、退散!!

 
 六花のおでこに、
 お札を貼り付けて退散させたい気分なのに、
 悪魔モードの俺にひるむことなく、
 六花が笑っている。


 おい! おい! どうした?


 七星にフラれたショックで、
 脳みそのしわが全部消えちゃったか?


 それとも生まれて初めて告白されて、
 脳がアイスクリームみたいに溶けたのか?


 俺のしわだらけの
 高性能な脳みそで考えても、
 六花の行動は理解不能。


 俺が六花を睨みつけながらリビングに行くと
 六花は微笑みながら、
 ソファの上を手でポンポンした。


「お兄ちゃん、ここに座って」


 なんだ? 


 何をする気だ?


 俺をソファに座らせて、尋問でもする気か?

 
 も……もしや……


 俺が今、
 一番突っ込まれたくないことを
 聞いてくるとか。


 俺の頭の中で、勝手に映像が流れだした。


 頭に2本の角をつけ、
 鋭い八重歯をきらりと光らせた六花が、
 『イヒヒヒ』と不気味な笑みを浮かべている。


 そして俺を睨みつけながら、
 低い声でこう言うんだ。


「花火大会の時に、言ったよね。

『六花のこと、誰にも渡す気はないから』って。

 あれって、どういう意味かな?」


 ヒエ~~!!


 そこを突っ込まれると、
 俺はノックアウトです。


 戦闘不能で、
 リングの上で白いタオルを振って、
 退散です、俺は。


「お兄ちゃん? 大丈夫?」


 勝手な妄想中の俺を心配したのか、
 六花が上目遣いで俺を見つめた。


 ギブです。


 そんなウルウルな瞳で見つめられたら、
 ギブアップです。


 六花は、そんな俺のことなど無視して、
 あいかわらずソファを叩いている。


 意味が分からず、
 促されるままにソファに座った。


 すると六花も隣に座った。


 俺の腕と六花の腕が、
 触れそうで触れない距離を保っている。


 隣に座るだけで、
 無表情のまま一言もしゃべらない六花。


 長い沈黙を先に破ったのは、六花だった。


「お兄ちゃん、頭なでなでして」


 は? 


 はぁ??


 『頭 なでなで』ですと??


 それはムリだって!


 これ以上六花に触ったら、俺、
 赤ずきんを食べちゃうオオカミに
 変身しかねないからな。


 俺はガバッとソファから立ち上がると、
 階段をかけあがり自分の部屋に逃げ込んだ。

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