白雪姫に極甘な毒リンゴを
☆六花side☆

 もう、お兄ちゃん。


 せっかく甘えようと思っているのに、
 どこに行っちゃったんだか。


 花火大会の日、
 浴衣を着つけてくれた時に
 春ちゃんに言われてから、
 私はお兄ちゃんに甘えることにした。


 お兄ちゃんにぴったりくっついて、
 ソファに座ってみたり、
 お兄ちゃんが立っているときには、
 後ろからくっついてみたり。


 毎回『邪魔!』って怒鳴られるけど、
 気にならない。


 だって、
 お兄ちゃんの背中に顔をくっつけると、
 なぜか落ち着くんだもん。


 私、決めたんだから。


 今まで甘えてこなかった分、
 これからは気の済むまで
 お兄ちゃんに甘えるって。


 夕方になり、夕飯の支度をしていると
 ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。


 モニターで確認すると、


 え? 


 紫音くん?


 パタパタとスリッパの音を響かせて
 玄関まで走って、
 ゆっくりと玄関ドアを開けた。


「六花、今から30分くらい時間ある?」


「え? あるけど……」


「じゃあさ、バスケやりに行こうぜ!」


 え? 


 えぇぇぇぇぇぇ??



 バ……バスケですか??


 私バスケには、
 トラウマしかないんですけど……


 バスケットボールに、
 嫌われているんですけど……


 いきなり我が家のインターフォンを押した
 紫音くんは、
 私の返事なんて聞く気ゼロ。


 無理やり私を、
 公園に隣接されたバスケコートに連れて来た。


「六花さ、ドリブルやってみて」


 紫音くんにボールを渡され、
 一応やってみる。


 う……

 やっぱりボールに嫌われている……


 地面にバウンドしたボールを、
 手のひらでつくだけなのに、
 ボールはすぐに私から逃げて
 どっかに行っちゃう。


 何度やっても、
 私の手のところにボールは戻ってきては
 くれないし。


 涙目になりながら、ボールと格闘していると、
 紫音くんが目に涙を浮かべ、
 お腹を抱えて笑っていた。


「やばい!
 六花のドリブルがおかしすぎて
 笑いが止まんない」


 もう!

 こっちは一応、必死にやっているのに。


 どうせ私は運動音痴ですよ。


「紫音くん、
 私をバカにするためにここに連れてきたの?

 もういいもん。

 バスケなんかできなくても、
 生きていけるもん。

 私、帰るから」


 私が口を尖らせて帰ろうとした時、
 笑いをこらえたままの紫音くんに
 腕をつかまれた。


「六花、待って、待って。

 もうちょっと俺に付き合ってよ。アハハハ。

 ごめん、
 六花のドリブルを思い出すだけで
 笑えちゃって、アハハ」


「紫音くん、まだ笑っているの?」


「今落ち着くからさ」


 紫音くんは手のひらで両側のほっぺを叩くと、
 さっきとは180度違う、真顔になった。


 そして、落ち着いた声でこう言った。

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