白雪姫に極甘な毒リンゴを

「俺さ、
 六花に謝らなきゃいけないことがあってさ」


「え?」


「俺さ、
 初めて六花を見た時に思っちゃったんだ。

 本当に一颯さんの妹?って。

 なんか、想像していたのはもっとケバくて、
 自信満々な子だったから。

 ダサい子だなとも、正直思った」


 そりゃそうだよね。


 お兄ちゃんとは
 1滴も同じ血は流れていないし、
 私ってブサイクだし。


 その頃は、
 分厚いレンズのメガネに、
 おさげだったしね。


「別に、謝らなくてもいいよ。
 本当のことだし」


「でもさ、
 入学して結構すぐの体育の時間に、
 隣のコートで六花のクラスが
 バスケをしているのを見ちゃったんだよね」


 え? 

 あの時の私のこと……


 見られていた?


 思い出すだけで、
 自分の顔の温度が急上昇した。


「六花さ、バスケの試合中に、
 仲間にボールをパスしたじゃん。

 それなのに、あれ?
 自分が投げたボールがどこ?どこ?って
 キョロキョロしてさ。

 そしたら上からボールが降ってきて、
 六花の顔面直撃なんだもん。

 どう投げたら、
 真上にボールがいっちゃうわけ?

 それを、素でやってるところが
 俺の笑いのツボに入っちゃってさ、
 一日中、思い出し笑いしちゃったじゃん」


「そ……そんな恥ずかしいこと……
 忘れてよ!!」


「忘れねえし。

 そのせいで、
 数学の授業中に思い出し笑いしちゃって、
 先生に怒られたし」


 それはお気の毒に。って、
 私のせいだよね。


「ごめん」


「別に、六花が謝ることじゃないだろ?

 そのバスケをしている
 六花の姿を見てからかな、
 俺……六花のことが気になってしょうがない」


「え?」


 私のことが、気になる?


 紫音くんが私に近づいたのって、
 お兄ちゃんの情報が欲しかったからだよね?


 私と仲良くなれば、
 お兄ちゃんに近づけるからだよね?

 
 紫音くんの言っている意味が
 理解できなくて、
 私の頭の中はハテナで埋め尽くされた。

 
「俺さ、もっと六花のこと知りたいんだよね。

 だから明日もさ、
 この時間にここでバスケやらない?」


 私のことを知りたい?


 それって、どういう意味だろう。


 意味は分からなくても、なぜか嬉しかった。


「良い……けど……。

 でも、私がバスケを下手だからって、
 笑わないでよ」


「どうかなぁ。それは約束できないな」


「もう! 紫音くんたら」


 その日から紫音くんとは、
 バスケ部の練習帰りに
 わが家のインターフォンを押して、
 ここで一緒にバスケをした。


 もちろん、お兄ちゃんには内緒で。

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