白雪姫に極甘な毒リンゴを
夏休みも半分くらい過ぎました。
あいかわらず、
お兄ちゃんに甘えているけど、
最近ちょっとだけ、
お兄ちゃんの反応が変わってきた。
甘え始めた頃は『俺に近寄るな!!』って、
グルルグルルうなりながら
牙を向けてきたけど。
昨日なんて、
お兄ちゃんがドライヤーで
髪を乾かしているときに、
お兄ちゃんの背中にぴったっとくっついたら、
ニヤっとしながら、ドライヤーの風を
私の顔にかけてきたし。
一昨日だって、
洗面所でお兄ちゃんが歯磨きをしている時に、
これまた背後霊のように
背中に顔をくっつけたら、
手に水をつけて、指でパッパ、パッパと
私に水をかけてきたし。
かまってもらえるようになったのが嬉しくて、
今日はどんな風に甘えようか
考えるのが楽しくてしかたがないです。
あ、いけない。いけない。
今は夕飯の買い物中だった。
早く買い物を済ませて、夕飯を作らなきゃ。
そう思って、
パックに入ったタコを手に取った時、
隣にいたお客さんと目が合った。
な……な……七星くんだ!
どうしよう、どうしよう……
ここで、
無視して逃げちゃうのはおかしいよね。
でも、私が告白してフラれたあの日から、
お互い無視したまま
夏休みに入っちゃったから、
馴れ馴れしく話しかけられないし。
どうしよう、どうしようと
お目めが左右に泳いでいると、
七星くんの柔らかい声が耳に届いた。
「赤城さん、夕飯の買い物?」
「え? あ……うん」
どんな顔をしていいのかもわからなくて、
顔をあげることができない。
「今日は、丸ごと1匹買うんじゃないんだね」
丸ごと1匹?
初めは、
言っている意味が分からなかった。
たこ……タコ……たこ焼き……?
あ、あの時のこと!?
「あの時は……お父さんが買ってきたから……」
フフフと、七星くんの優しい笑い声。
その声に引き寄せられるかのように、
七星くんの顔を見上げると、
子供みたいな純粋な笑顔を向けながら
七星くんが言った。
「知ってる」
七星くんの優しく微笑むその顔、
すごく久々に見た。
その笑顔を向けられると、
ホッとするというか安心するというか、
すごく癒される、大好きな笑顔。
待って、待って、六花。
その笑顔にときめいちゃダメでしょ。
もうとっくに、
七星くんにフラれていて、
七星くんへの思いは、
空に打ちあがったあの花火とともに
消し去ったんだから。