白雪姫に極甘な毒リンゴを
六花 欠乏症
◇◇◇
六花欠乏症なんだけど……
夏休みが始まってから、
六花は急に俺に甘えてきた。
俺がソファに座れば隣にひょこって座るし、
俺が家の中を歩けば、
俺の背中にピタッとくっついて
一緒に移動していたし。
おれはいつも『邪魔! どっかいけ!』って
突っぱねていたけど、
それでも俺の傍から離れない六花が、
かわいくてしかたがなかったのに。
六花が、『北海道に行く』と
宣言したあの日から、
俺に甘えることもなければ、
笑いかけてくれることさえなくなった。
俺の時間よ。
巻き戻ってくんない?
六花が俺の隣で微笑んでくれたあの頃さ。
そんなこんなで、
甘~い夏休みもパタリと終わって、
2学期が始まりまった。
「一颯、何を悩んでいるわけ?」
昼休みになって、
お昼の準備をしているとき、
隣で十環が微笑みながら言った。
「ベ……別に……
悩みとかねえし」
「一颯は本当に、強がりなんだから。
俺に言っちゃいなよ。言うと楽になるよ」
「だから、
何も悩んでることなんてねえし!」
十環にでも、言えるわけねえよな。
六花が甘えてくれなくて
寂しいなんて。
それに、
六花が北海道に行かないように
俺はどうすればいいかわかんないなんて、
情けないことをさ。
「一颯くん、早くお昼を食べに行こうよ」
「十環くん、
今日は卵焼き甘めに作ってきたよ」
女子たちがいつものように声を掛けてきた時
ドスのきいた声が、
俺の目の前から降ってきた。
「一颯先輩。
大事な話があるんですけど、
ついて来てもらえません?」