白雪姫に極甘な毒リンゴを

 誰だよ。


 こんな攻撃的な物言いを俺にするのは……


 って


 六花の親友の桃ちゃんだし。



 おかしくないか? 

 俺への態度が変わりすぎじゃないか?


 この前、
 六花の誕生日に家に来てくれた時には、

『一颯先輩、お家を案内してくれるって
 言ったじゃないですか』って、
 語尾に音符がついた感じで
 話しかけてきたのに。


「ちょっと、あんた一年でしょ?
 今から一颯くんは、
 私たちとお弁当タイムなんだから」


「そうそう、邪魔しないでよね」


 先輩女子たちに囲まれて、
 嫌味を言われている桃ちゃん。


 普通なら、
 『女の先輩たちって怖い!!』って、
 涙目で走り去っていくものだと思うのに……

 
「は? 
 邪魔しないでって言いたいのは、
 私の方なんですけど」


 桃ちゃんは、先輩女子の集団相手に、
 1歩もひるまない。


「お姉さまたち、安心してください。

 私は一颯先輩のことを、
 1ミリも興味がありませんから。

 話したいのは、一颯先輩の妹のことです。

 それでも一颯先輩を連れていきたいなら、
 私を倒してからにしてください。
 みんなで殴り掛かってきてくれて、
 構いませんから」


 なんだ?

 桃ちゃんの冷酷な瞳。

 
 睨まれたら、
 恐怖で動けなくなるような鋭い眼差し。


 女子たちはその恐ろしい威圧感に、
 戦意喪失しているし。


 そんな時、
 灰色に濁った空気を一掃するように、
 十環の優しい声がこの場を包んだ。


「桃ちゃんだっけ?
 女の子が、そんな怖い顔をしないの。

 どうしたの? 

 りっちゃんのことで、心配事でもあった?」


 桃ちゃんは、
 鋭く睨みつけていた瞳を一瞬大きく開くと、
 うつむきながらコクリと素直にうなずいた。

 
「みんなごめんね。
 今日は俺たちなしで、
 お昼を食べてくれるかな?」


「え!!」


「だって、十環くんに食べて欲しくて、
 卵焼き焼いたのに」

 
 さすが十環。


 ブーブー文句を言う女子たちを
 収める術も持ち合わせている。


「みんなも心配だよね?
 一颯の妹さんのこと」


「え? 

 え……と……そうだよね。 
 一颯くんの妹さんだものね」


「私も心配だよ」


「私だってそうだよ」


「みんなは優しいから、
 そうやって言ってくれると思った」


 十環の最大級の微笑みに、
 さっきまで文句を言っていた女子たちも、
 目がハートになって、
 優しい顔になっているし。


 さすが十環。 

 女子の扱いに関しては頭があがんないわ。
< 143 / 281 >

この作品をシェア

pagetop