白雪姫に極甘な毒リンゴを


 その後、俺と十環は、
 誰もいない屋上に連れて来られた。


 って
 十環はいなくてもよくないか?


 桃ちゃんは、六花のことで
 俺に話したいことがあるみたいだし。


「十環さ、お前には関係ないだろ。 
 教室戻れよ」


「え? 
 一颯LOVEの女子たちを説得したのは俺だよ。
 俺だけ帰れなんて、ひどいよね?

 それに、俺がいて良かったって
 感謝されると思うけどな。

 俺、桃ちゃんみたいの女の子の扱いも
 得意だから」


 桃ちゃんに聞こえないように、
 十環とコソコソしゃべっていたからか、
 突然キレだした桃ちゃん。


「い~ぶ~き~せ~ん~ぱ~い~!

 夏休みに何があったのか、
 説明してもらいたいんですけど」


「桃ちゃん、
 地縛霊に乗り移られたみたいな
 顔になっているよ。

 女の子は笑った方が可愛いから、
 スマイル!スマイル!」


 あんな
 般若みたいな恐ろしい形相の桃ちゃんに、
 笑顔で冗談を言える十環の神経。


 本当に尊敬する。


「十環先輩は黙っていてください。
 私は一颯先輩に聞いているんです。

 夏休みに何があったんですか?

 どうせ六花のことを、
 『ブス』とか『バカ』とか
 ののしり続けたんでしょ。

 それとも、寝る間も与えず、
 家事をやらせ続けたとか?

 トカゲを捕まえてきて、
 ムリヤリ六花に食べさせようとしたとか?」


 は?


 桃ちゃんの頭ン中、どんな妄想をしてんだよ。


 俺の方が逃げ回っていたよ。


 なぜか俺に甘えだした、六花から。



「俺がそんなこと、するわけないだろ?」


「じゃあなんで、
 六花があんなことを私に言ったんですか?」


 え?


 目の前の桃ちゃんは、
 急に唇を強くかみしめ、
 スカートを握りしめていた。



「なんて言ったんだよ?」


「……北海道に……

 行くって……」



 そのことか。


 桃ちゃんにも言うくらい、
 六花は本気で思っているわけだ。


 俺から逃げようって。
< 144 / 281 >

この作品をシェア

pagetop